Sep 11 2020
「生産過程で大量に出る端材、ハギレ、B品を、どうにか有効活用することはできないか」。売れ残った洋服や食材の廃棄問題の改善に苦戦している社会状況で、廃棄される"余りもの"を前に、イデーのスタッフは思案されていました。そこで、以前から材料をできるだけ無駄にしないものづくりをされてきた『ミナ ペルホネン』のデザイナー皆川明さんに相談することに。そして今まで捨てられていた素材は皆川さんのアイデアによって新しい価値を持ち、商品化されました。今回は、もったいないを「ためて」かたちを変えて「次につなげる」新しい視点のイデーのもの作り『POOL ためてつなげるものづくり』プロジェクトについてレポートします。
『POOL ためてつなげるものづくり』は、さまざまな企業やクリエイターとつながって、端材やハギレ、B品を新しい価値を持つ商品へと生まれ変わらせています。
「ひとつのスタイルや価値観にとらわれることなく、真に豊かで美しい暮らしとはなにかを提案していく」イデーの理念を体現するように、「余りものは捨てるもの」という固定概念をアイデアとデザインによって払拭し、アップサイクル。アップサイクルとはリユースやリサイクルとは異なり、もとの形や特徴を生かして全く別のものとして生まれ変わらせるサステイナブルな考え方です。今まで捨てていた素材を生かすため、廃棄問題解決法のひとつとしても注目されています。今回は『無印良品』のベッドシーツ生産時に四隅から出るハギレを「巾着」にアップサイクル。(2020年10月9日発売予定)今までもこのハギレを使って、ハンカチやポーチ、ルームシューズなどが作られています。
POOLを監修するのは『ミナ ペルホネン』デザイナーの皆川明さんです。プロジェクトへの参加クリエイターもイデーとともに選考されています。POOLのクリエイティブディレクターとして起点の存在である皆川さんは、ご自身のブランドでも服作りの際に余った生地をアップサイクルし、生地を廃棄しないためのサステイナブルな取り組みをいち早く実行されていました。その姿勢に強く共感し、監修を依頼。洋服だけでなく暮らしにまつわる「もの」や「こと」に関して幅広いクリエイティビティを発揮されている皆川さんの快諾を得て、POOLプロジェクトとして一歩を踏み出しました。
「POOLというプロジェクト名は、ためる(POOL)とつなげる(LOOP)という言葉から名付けました」。名付け親は皆川さんです。余りものやゴミという現状をアイデアによってひっくり返し、新しい商品としてつなげてゆく。そんな幸せな循環のイメージが膨らむ素敵なネーミングですね。
今回、四角形のハギレで作ったPOOLの巾着には猫の刺繍が施されています。なぜ猫なんだろう?と、その理由について質問したところ、
「余りものは役に立たないと思われていますが、生かすアイデアによって生命力を持つことができます。物の生命力には人の愛着が欠かせません。猫は気まぐれで人の暮らしに大きく役に立つわけではありませんが、その存在は人の暮らしのなかでかけがえのない癒しの存在になります。そういう愛着がわく存在意義と巾着の在り方に共通性を感じ、猫の顔を刺繍で入れることにしました。」とのご返答が。
ふと目に留まった時、なにげなく手にとった時、思わず笑みが浮かんでくる愛くるしい猫の姿は心に癒しを与えてくれそうです。
「余りものが愛されるものになるようにと願って、デザインテイストはユーモアと愛嬌のあるものにしています」。
新しい生命力を得たPOOLのアイテムたちが、多くの人に愛着をもって大切にされている風景が目に浮かびますね。
この巾着に使われているのはSHINDOオリジナル『S.I.C.』のコードです。商品開発のために端材などの情報収集をされていたイデーの担当者さまからご連絡をいただき、原宿にあるS.I.C.ショールームにご訪問いただきました。その際、行き場を無くした余りものを効率よくアップサイクルする取り組みやプロジェクトのコンセプトをお伺いし、深く共感。廃番となるコードを提案いたしました。
「シンプルなデザインはもちろん、耐久性においても求めるものにフィットしました」と言っていただき、共創することで広がるサステイナブルな取り組みで役に立てることに感謝しています。
「POOLプロジェクトではできるだけ複雑な仕様を省いて手間をかけ過ぎず、軽やかに材料を生かして再生」することを大切にしています。その理由は、かける手間が少ないほうが少しでも安価で社会に戻すことができるから。エコロジカルな取り組みに賛同しても、高額で購入しにくい価格では多くの人が参加することが難しくなります。暮らしのなかに溶け込み、人に寄り添える商品であるためにも、手が届きやすい金額であることは重要なポイント。そのためにもシンプルに再生させることが大切です。
「余りものは計画生産と違って色や形がまちまちなので、商品企画が難しいところです。ですが、その折り合いをつけることにパズルを解くような面白さも感じています」と、皆川さん。次はどんなものを作ろうか、どのクリエイターに生命力を吹き込んでもらおうか。クリエイティブディレクターとして、難しさ以上にワクワクする気持ちで商品企画をされているようです。
「余ってしまった物を社会の喜びへと変えられたらと思っています。そのためにもジャンルを問わず、これからも様々な余りものと出会っていきたいですね」。
そう語る皆川さんの言葉は力強く、優しさが満ちています。
POOLのアイテムたちは多くの人々の暮らしに馴染み、さりげなく、でも確かに、物と人の新しい物語を芽吹かせているのだと感じました。
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ためてつなげるプロジェクト『POOL』との取り組み