Jul 07 2020
全世界で感染者が増え続けている新型コロナウイルス。各国の中で最も感染者数が多く、医療用防護服やマスクの不足が深刻化するアメリカで、「ファッションの力で何かできないか」と立ち上がった日本人女性がいます。
花沢菊香さんは、ニューヨークを拠点に米国ファッション業界で働くひとり。自社ブランド製品の生産に『S.I.C.』ストレッチテープを使用してくださるSHINDOの顧客でもあります。花沢さんが代表を務める「ファッション・ガールズ・フォー・ヒューマニティ」が起こした、世界を変える素晴らしい行動を一人でも多くの人に知っていただきたく、花沢さんの支援活動についてレポートします。
フォーブス誌が選ぶ「2014年の48人の慈善事業家」の一人としても知られる花沢菊香さん。彼女が代表を務める非営利団体「ファッション・ガールズ・フォー・ヒューマニティ(以下FGFH)」は、2011年東日本大震災をきっかけに設立。ファッションを通じて義援金を寄付する「ファンドレイジング」活動を行う、アメリカで認可されているNPO法人です。新型コロナウイルス感染拡大が加速するなか、「ファッション業界に従事する者として、FGFHで何かできないか」と模索し、3月ごろから活動を始められました。
新型コロナウイルスが世界的な広がりを見せた3月中旬、花沢さんが暮らすアメリカでは外出禁止令が発せられ、各州がロックダウン状態に。世界中で医療用ガウンが不足し、ゴミ袋をかぶって医療活動に取り組む医療従事者の姿が連日報道されました。その映像を見た花沢さんは「ファッションで解決できないか」と、使い捨て医療用ガウンの製作および型紙の配信を思いつきます。
「たまたま、自社ブランド『VPL』の工場はミリタリー関連の製造を行っていたため、封鎖されずにいたんです。貴重な稼働環境を活用できないかと考え、まずは医療用ガウンのサンプルを入手し、型紙を起こそうと思いました」
しかし医療従事者の命を守る医療用ガウンの不足は深刻で、サンプルの一着を入手することさえ非常に困難な状況。在住するニューヨークでは入手できず、わざわざ遠く離れたロサンゼルスの医者から送ってもらいました。また、医療用ガウンは普通の洋服とは違い、感染症治療のために細かな規定や着用法が定められています。その説明書も同時に入手した上で、ようやくサンプルを解体し、型紙の製作を開始しました。
「自分たちだけで作っても、世界中で必要とされる数を満たすことは到底できない。それなら情報開示することで多くの人の目に留まり、ひとりでも多くの人に作ってもらえれば」と考え、すぐに医療用ガウンの作り方動画をYouTubeに公開。
型紙は無料でダウンロードできるよう、FGFHのウェブサイトに掲載しました。すると、サイトをオープンして1週間足らずで大きな反響が。予想以上に多くのアクセスがあると同時に、ダウンロードした人たちからさまざまな質問や要望が寄せられました。その都度アップデートを繰り返し、オープン後2ヶ月で世界160カ国、10万人以上が見ることとなったのです。
「今はこんなにも世界中の人とつながることができる。多くの人を巻き込んだオープンイノベーションは、世界規模の問題を解決することができるんだと感動しました。想いが人を動かし、新しい人のつながりを生む」。そう確信したと花沢さんはいいます。
花沢さんが最初に作った型紙は、点と線をつないだ簡単なものでしたが、服としての機能性を高めるためパートナー会社『Overcoat社』に新たな型紙を依頼。カーブなどを盛り込み着心地が改善された一方で、型紙を利用するボランティアからは「難しくて作れない」という声もあがったそうです。改めて様々なバージョンの必要性を感じ、試行錯誤。
現在はFGFHのサイトでは医療用ガウン、マスク、キャップ、フェイスカバーなどの型紙が無料でダウンロードできるようになっています。ダウンロードされたFGFHの型紙はアメリカのみならず各国で利用され、製作された医療用ガウンは、細心の注意のもと本当に必要とする人のところへ届けられています。
また、FGFHの型紙はボランティアが手作りした医療用ガウンが地元の病院に寄贈されるなど、コミュニティ間の協力支援としての役割を果たし、人と人のつながりという新たな価値を生み出しました。医療用ガウンを作る人たちにとっては、家にいながら誰かのためになれる...そんな社会貢献のきっかけにもなっています。
医療用ガウンに続くプロジェクトがマスクの製作です。もともとアメリカではマスクを着けることに抵抗を感じる人がほとんどでした。しかし新型コロナウイルスの感染防止のためにアンドリュー・クオモNY州知事がマスクの着用を指示したことで一気に需要が高まり、手に入りにくい状況に。そこでFGFHではオリジナル型紙を製作し、花沢さんの自社ブランド『VPL』やデザイナーの協力を得て、マスクの生産を開始しました。
デザイナーのクリスチャン・シリアーノは、クオモNY州知事の呼びかけに応える形で、マスク製作をスタート。FGFHオリジナルの型紙を使って3万個のマスクを製作、ワシントンポスト紙にも取り上げられ話題になりました。
『VPL』のマスク販売で得られた収益2万ドルは、医療用ガウン製作の基金に寄付されています。このファンドレイジング活動も広がりを見せ、現在はラグジュアリーアイテムを扱うオンラインショップ「The RealReal 」がマスクの販売を請け負っています。
花沢さんの自社ブランド『VPL』では、スポーツタイプのランジェリーの生産で余った『S.I.C.』のストレッチテープを大量に保管していました。医療用ガウンやマスクの製作にはこれらのテープを利用しています。また、医療用ガウンの製作協力者に分けるため、テープを切ってキットを用意。キットには襟ぐり用ストレッチテープ、袖口用ゴム、腰まわりにつけるリボンがセットされています。悪用や転用を防ぐため、1キット5ドルでFGFHのサイトに掲載していますが、本当に必要な人たちにはまとめて無料提供を行っています。ワシントン州の施設では10数人のボランティアの手により、ベッドシーツから400〜500着ほどの医療用ガウンが作られました。その生産のためにもFGFHからキットが送付されています。
これまで『VPL』社内では、なぜ余った大量のストレッチテープを捨てずに取っておくのかという議論を幾度か繰り返したといいます。
「明確な答えは出ないままでしたが、廃棄の可能性があった残ったテープたちは今、とても貴重な材料です。あぁ取っておいたテープは医療用ガウンやマスクになるための運命だったんだと気づいた時には、思わず涙が出てきました」
FGFHのマスクはVOGUEやELLEといった雑誌に取り上げられたことでも話題になり、これまでに2万個を製作、アメリカを含め海外へも送付しています。
「社内に余っていたストレッチテープではすでに足りなくなり、新たにSHINDOから購入しています。生地よりもストレッチテープの方が高いという状況はありますが、価格もご協力いただき感謝しています」
アメリカでは真っ白のマスクは敬遠されるため、あえてゴムは白ではなくグレーやネイビーのものを使用しているそう。すべての人にぴったりと合うサイズや形のマスクは難しいですが、世界中からのフィードバック&試行錯誤を繰り返しながら、現在もマスクの製作を進めています。
これまでファッション業界ではシーズンごとに新しいデザインが生み出され、ファストファッションの台頭で、より短いサイクルで製作&販売されることが当たり前になっています。しかし新型コロナウイルスの影響でファッションはいま、新しい局面を迎えようとしています。
「アフターコロナのファッションの目標のひとつは、加速するファッショントレンドのサイクルを見直すことだと思っています。短いシーズンごとに色やデザインを変えるだけの商品は無駄が多い。これからは本当に価値のあるもの、例えば、健康に役立つなど、テクノロジーを使った商品を提案する必要があると感じています」
花沢さんの目には、ファッションを起点とする今後のサステイナブルな展開がもう見えているようです。まずは少しでも早い新型コロナウイルスの終息を願い、SHINDOでも出来る限りの協力ができればと考えています。
■VPL Channel
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